ノミネート2009

No.5  下村陽子

”患者の選択を支え、気持ちに「応える」プロフェッショナル・ナース”

現在の職業:
東京医科大学八王子医療センター 看護師 緩和ケア認定看護師

推薦文:
今後、下村さんのような看護師に会うことは想像できない、というのが大げさではなく正直な思いです。ある人のすべてを誰かに説明するということは、不可能であるとは分かっていますが、以下では、とても私的な視点であっても、下村さんという人の持つ魅力の一面を垣間見てもらうことができるのではないかと思い、それを紹介し、推薦文とすることにします。

下村さんとの出会いは、24年間ではじめて、しかも化学療法のための入院でした。そのしゃきっとした立ち居振る舞い、「やらされた感」のない優しい語り口調・表情に、正直どきどきしてしまいました。今になって思い出しても、ともすれば形だけの技術論に陥ってしまう「傾聴」も、そんなことをまったく感じさせない自然な「対話」を生み出してくれていました。

下村さんは主任という立場を差し引いても、日々の業務の「忙しさ」による「次の患者さんのところへ行きたい」という雰囲気を感じさせられることは一度もなく、(本人にとっては大変だったと思いますが…)気持ちを任せることができる人でした。また、病棟スタッフからも「下村さん素敵ですよねー。美人だし優しいし仕事もすごくできてカッコいいんですよ。あんな風になりたいです」といった話も聞くことがあり、スタッフにとっても憧れの存在なのだなぁと感じました(ちなみにうちの家族や見舞い人も絶賛でした)。

…と、挙げればきりがありませんが、下村さんが自分にとって最大のインパクトをもったのは、後の治療方針をめぐって主治医と意見が割れたときでした。主治医の知識・経験と、自分が提案した方向性が大きくズレていたためです。その夜、談話室で途方に暮れていたところ、勤務終了となって帰ろうとする下村さんが声をかけてくれました。一通り話を聞いた後で、彼女が言ったことばは、「自分にとって大切だと思う選択肢を捨てることはないよ」。思わず「は?」と顔を見てしまいました。「病院スタッフは医師に背かない」とどこかで聞いたようなステレオタイプに浸っていた自分にとって、これは衝撃だったのです。

下村さんのことばは、自分の「選択肢の『内容を』肯定」するのではなく、「選択肢を『持つことを』肯定』してくれました。ああ、いいのだと。おかげで、一気に緊張が解け、治療方針を保留にして退院をしました。その後、主治医とも話し合い、転院をして現在は再発もなく経過を追っています。下村さんがいなかったら、あの場であのことばを聴くことができなかったら…そんな思いは今でも変わりません。その後に病棟に挨拶に行ったときは、「自分のいいと思う方向に進んでいけばいいんだからね」と笑ってくれました。プロフェッショナルとして患者の「気持ちに振り回されない」ように努めることと、患者の「気持ちに応える」ことは矛盾しないと思います。そんな、「気持に応える」看護師である下村さんを、感謝の気持ちも込めて推薦したいと思います。

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