ノミネート2009

No.12  李祥任

”白衣のないナース 誰もが笑顔で生きるために”

現在の職業:
認定NPO法人 シェア=国際保健協力市民の会 看護師

推薦文:
李祥任は海外で医療支援活動に従事することを目指し看護師となった。その夢を叶えるため数年の病院勤務を経た後退職し、タイ、日本でエイズ啓発などのボランティア活動を始めた。そして2003年、職業として医療支援活動に従事するチャンスが巡ってきた。海外において医療支援協力を行う認定NPOシェア=国際保健協力市民の会のタイ駐在スタッフに採用されたのだ。

派遣されたタイの農村で、エイズへの差別と偏見の中で病院に行くことすらできずに自宅で臥したエイズ患者、治療をあきらめた家族たち、生きる希望を見出せないまま命を落としていく人々に出会うのだった。李はどんな高度な医療や最新の薬が病院にあったとしても、患者を取り囲む地域社会のサポートや医療従事者と患者間の十分なコミュニケーションがなければ、闘病をあきらめ生きる希望をなくす人々がいることを切実に感じ、彼らの役に立ちたいと固く決意したのだった。

タイ赴任の3年の間、同僚スタッフたちと共にHIV(※)陽性者同士が助けあうグループづくりやエイズ啓発活動に専念した。その活動は着実に実り、李たちが支援した村では、HIV陽性者、村長、学生、子どもたちが協力してエイズキャンペーンを行うなど、HIV感染の有無に関わらず助けあう社会ができてきた。出稼ぎ先でHIVに感染し、差別を恐れ故郷に戻ることに不安を感じていた人々も、今では家族に囲まれ、エイズ治療薬を飲みながら、心身ともに健康に笑顔で暮らすことができるようになっている。

2006年に帰国した李は今、高度に医療が発達したはずの日本で起きている医療格差に取り組んでいる。在日外国人の死亡率は男性で約10%、女性で約30%、日本人より高い。「健康保険がなく医療費の支払いが困難」「言葉に不安がある」などそれぞれの人が持つ状況は、たとえ目の前に医療機関があったとしても、医療を受けることのできない、越えることの難しい壁をつくっている。李は彼らのために、ボランティアと共に在日外国人の無料出張健康相談会の開催や、在日外国人の医療電話相談に取り組んでいる。日本の医療機関からの多くの電話相談も受けている。

医療を施す前提として、何よりもまず医療に繋げる社会をつくらなければならない。それこそが命を繋げることだ。

李は亡き祖父がつけた名前の意味するのは「幸せの先生」だと最近知った。困っている患者に耳を傾け、寄り添い、医療に繋げ、そして幸せにするために、今日も活動している。病院には行かなくとも、白衣を着なくとも、医療を最も必要とし、さらに医療に最もかかることが困難な人々のために。

※エイズ発症の要因であるHIVウィルス

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