第2回ノミネート 2010
No.2 石原奈美
”患者さんにとことん寄り添うチームを創る!”
現在の職業:
川崎協同病院 看護師長 緩和ケア認定看護師
推薦文:
彼女は、私たちの病院の緩和ケア認定看護師です。現在は、私が病棟医長を務める急性期病棟の看護師長となり、手術や化学療法を安全に乗り越えるお手伝いをする一方で、人生の最期を過ごす患者さんにも徹底して向き合うチーム作りにも力を注いでいます。
彼女は、スタッフが自分の価値観を押しつけることなく患者さんの本音に寄り添えるよう、様々な配慮をしてきました。ベテランの鋭い意見のみならず、経験の浅いナースの意見も柔軟に取り入れます。そのおかげで、誰かが患者さんの思いを自然にくみ取り、それをみんなで共有して実現するチームが形成されてきました。「タブーをつくらないこと」と「タイミングをのがさないこと」、これがチームのモットーです。
患者さんの誕生日が近づくと、スタッフは自然に準備を始め、お祝いをします。ハッピバースデートゥーユーの歌に包まれる30秒間は、誰もが自分だけを見てくれる…自分がまたひとつ年をとることを実感できる瞬間です。どんなに予後の厳しい患者さんであっても、誰も誕生日に気付かずに一日を終えるなんて寂しいに決まっているのです。
買い物や散歩に同行したり、喫煙に行ったりといった日常の援助はもちろん、患者さんが犬に会いたいといえば病棟に連れてきてもらう。大型犬なら、患者さんを救急室にストレッチャーごと移動して、そこで会ってもらう。病棟全体でバイキングを開催する。3人部屋を個室にして、家族5人で寝泊まりしてもらう…。「こんなことやっていいはずがない」というタブーや、「こんなこと患者さんが望むはずがない」という先入観を捨てて、患者さんの思いに寄り添うチームを彼女は大切に育んできました。
昨年の春、子供が大好きで大好きで仕方ない直腸がんの患者さんが入院していました。局所再発で座ることも困難な、私の患者さんでした。離婚した妻との間の子供に会いたくてしかたありませんでしたが、どうしても連絡先がわからず、意気消沈していました。ところが昨年の5月5日のこどもの日、チームの看護師たちが、いきなり自分の子供を連れて集合したのです。子供の大好きなその患者さんと遊んでもらうためにです。患者さんは、病院の屋上で子供達と遊び、みんなでお菓子を食べ、本当に楽しいひと時を過ごしました。患者さんのあまりの喜びように、これにはさすがの私も脱帽でした。「他人の子供と遊んでもうれしいはずがない」という先入観を捨て、こどもの日という絶好のタイミングをはずすことなく、スタッフは患者さんの思いにみごとに寄り添いました。患者さんはひと月後に亡くなられましたが、子供たちとスタッフに囲まれて楽しそうにピースしている患者さんの笑顔は、いつまでもいつまでも、スタッフを勇気づけてくれています。
また彼女は、患者さんが亡くなると必ず次の週に、その患者さんを偲ぶカンファを全職種参加で開催してきました。医学的な振り返りというよりは、スタッフがやってきたことを共有して認め合いねぎらう場として、そして、患者さんへの思いや患者さんを失った悲しみをストレートに表出する場として、どんなに忙しくても必ず行っています。今では、私たちの病棟にはなくてはならない大切なカンファランスとなりました。私は、このカンファランスにただよう暖かくてやさしい空気が大好きです!
医療者の価値観という足かせをはずし、点数表の範囲でできる援助だけを探すことをやめ、 単なる一人の人間として患者さんと向き合った時、初めて見えてくるものがたくさんあります。その本当の勇気をサポートする管理者として、彼女は今日も、厳しくもやさしいまなざしをスタッフに注いでいるのです。