第3回ノミネート 2012

No.7  横田久美子

”財政破綻から市民を救ったヒロイン”

現在の職業:
夕張希望の杜 夕張市立診療所 看護師長 地域医療介護連携室長

推薦文:
「夕張のおっかさん」と市民から慕われるナースがいる。夕張市立診療所看護師長の横田久美子がその人だ。
市内の病棟・外来・特養・老健・グループホーム・患者の自宅、市外でも他事業所でも、所構わず彼女は顔を出し、場を和ませ、相談に乗り、心をつなぐ。診療報酬にもならない、自身の収入にも繋がらないこれらの業務。彼女はなぜこんなことに奔走するのか。それは夕張市の医療が歩んで来た道を振り返ると分かりやすい。

夕張市は2007年の財政破綻にともない、市内唯一の総合病院(171床)を19床の診療所へ大幅に縮小した。もちろん市内に救急病院はなくなった。44%という日本一の高齢化率を誇る夕張市、ここで医療崩壊が起こったのである。マスコミは一斉に、市民の生命の安全が脅かされると喧伝した。

それでは、本当に市民の生命は脅かされたのだろうか。ここに彼女の活動の源がある。確かに市内で高度医療は出来なくなり、救急搬送時間は倍増した。しかし彼女は、医師と共に「予防医療」と「在宅医療」という低資本でできる事業を強力に押し進め、地元出身者として市民を啓蒙、市民の生命を守ることに奔走したのだ。結果、夕張市の死因上位3位までの疾患の死亡率(SMR)は軒並み減少(胃がん・肺炎は3割減)。なんと市民の安全は守られたのだ。また、市内特養の看取り率は100%に、在宅患者は100人に達した。彼らが救急車を呼ばないことで救急出動回数は半減した。高齢化日本一の街で、高齢者の生命も生活も守られたのである。しかも、市民一人当たりの医療費は激減した(これは世界でも例のない事例である)。

もちろん、これらの成果には医師の関与が大きい。しかし、医師みな市外出身者、いずれその地を去る「風の人」である。破綻後の市立診療所を任された前診療所所長もすでに夕張を去った。現診療所所長である私も早晩この地を去る。やはり、地域医療を守るのは彼女のような地元出身の「土の人」なのだ。ある時は保健師の顔、ある時は病棟看護師の顔、またある時は訪問看護師、さらには隣のおばちゃんの顔にまで。彼女はカメレオンのように顔を変え、地域に深く入り込み、住民指導・施設連携・多職種連携など多方面で奮闘し、住民の健康と生活を守る。

実は、彼女にように地元の医療資源を熟知したベテラン看護師は、地域に多くおられる。しかし、彼女たちの知識・技術は社会に生かされているだろうか、埋れてはいないだろうか。今後の日本には、地域包括ケアの整備が必須である。その要となれるのは、もはや医師ではなく、彼女のような「土の人としてのベテラン看護師」だろう。彼女の活躍は、その明るい未来を明確に照らし出してくれている。

最近彼女は、街の集会場で「出張暮らしの保健室」という、健康相談まで始めてしまった。「夕張のおっかさん」。彼女の活躍は夕張を、いや日本を救うのだ。

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